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コロナとメンタルヘルス

コロナとメンタルヘルス

令和3年10月1日 発行

昨年2月頃から広まってきた新型コロナウイルス感染症は、この原稿を書いている本年7月1日時点で、日本全国で80万人が罹患し1万4730人が死亡しています。

新型コロナウイルスについては、ワクチンや治療方法あるいは治療薬などが分かってきました。そのため罹患した人の身体については、昨年に比べて格段と治療成績が良くなっていると思います。しかし一方で、長引くウイルス感染の蔓延に伴い、患者さんのみならず罹患していない人達や医療者までもが薄暗い霧の中を手探りで歩くような状態が続き、その精神的ストレスによって様々な心理的ダメージや精神疾患が増えていると言われています。2020年の1月から5月までの自殺者は8006人、2021年の1月から5月までの自殺者は8929人と大きく増加しています。これが全てウイルス感染と関係している訳ではないと思いますが、無関係とは言えないでしょう。

一般的に、人が戦争や自然災害など抑圧された環境の中で生活を強いられる時、その閉塞感、恐怖、見通しのなさ、孤独感から、重症度の軽重あれ、一種の適応障害を引き起こします。新型コロナウイルス感染の流行により、学校や仕事環境もオンラインが一般的になり、人と会わない生活によって自然災害とは違ったストレスも加わっています。感染してしまった人はその上に罪悪感を感じ、感染していない人は感染するかもしれない恐怖を感じ、医療者は長時間労働や家族と会えない寂しさや無力感を感じ、加えてそこに風評被害によるストレスも時には加わります。さらに精神疾患に既に罹患している人々にはより一層様々な心理的圧力がかかります。

ではこのようないつ終わるとも知れない状況で、私たちはどう自らの心を守れば良いのでしょうか。もちろん感染症の収束が最も大事である事は間違いありません。元来精神疾患がある方々は、担当医によってケアされているでしょう。医療従事者のメンタルケアも十分大切ですが、今回は割愛します。この紙面では、それ以外の皆様にとってのケアについて述べたいと思います。

COVID-19に伴う精神症状のシステマティックレビューと題して、いくつかの論文が出ています。そこには不安障害としてのパニック障害や、感染恐怖、不安症、また孤立によるうつ病、自殺企図などがあげられています。
それに対処する方法は、

①正しい新型コロナウイルス感染症についての情報を得る事、
②可能な限り人と関わる事、
③感染に注意しながら家の外を散歩する事、
④抑うつ気分(何をやろうとしても気分が乗らないとか楽しい事が無い)を感じた場合には心療内科を受診する事、
⑤万が一自殺願望があるようならば、心療内科や精神科受診を急ぐ
などがあげられています。

①の正しい情報を得るというのは、報道の曖昧さもあり、これだけ情報が多い社会なのにかえって困難になっています。ですが、まずは感染症の専門家の意見を読んだり聞いたりする事が良いでしょう。
②や③はご自身が心がける事です。たとえオンラインでも、顔を見て話す事で孤独感が薄らぎ、不安、恐怖、抑うつ気分が和らぎます。昔、「三年B組金八先生」というドラマ番組で、金八先生が“人は互いに支え合うから人という字を書きます”みたいな話をしていましたが、その通りです。人は社会的な生き物ですので、社会の中の立ち位置が揺らぐと不安になります。
しかし、もし、そんな事をしても④や⑤になってしまった場合には、専門家に委ねる事が重要です。医療機関はしっかりと感染症対策をしていますから、過剰に感染を不安がらず心療内科を受診し訴えを聞いてもらってください。医師やカウンセラーに話すだけでも心が落ち着く事もあります。

新型コロナウイルス感染症は未曾有の人類の危機ですが、私たちの文明も、天然痘やペスト、コレラ、結核と数々の感染症を乗り越えた実績があり、当時よりも格段と医学も化学も進歩しています。感染の終わりはまだ見えませんが、出口は必ずあるので皆で前を向いて歩いていきましょう。

(C・M記)

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