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“マザーキラー”子宮頸がんをワクチンで予防する

“マザーキラー”子宮頸がんをワクチンで予防する

令和2年4月1日 発行

皆さんのお手元にも目黒区から子宮頸がん検診の受診券が届いていますか。毎回利用して検診を受けている方には2年毎、未受診の方は毎年、5月末に届きます。この子宮頸がん、子育て世代の25〜44歳が罹患のピークで、幼い子供を遺してお母さんが亡くなるケースが少なくないため、マザーキラーとよばれているのをご存知でしょうか。

子宮頸がんには毎年1万人が罹患し、約3000人がこの病気で亡くなります。

原因は一部の特殊なタイプを除いてほぼ全てがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染です。HPVには100種類以上のタイプがあり、16型や18型などの発がん性のある高リスク型と尖圭コンジローマなど、イボができる低リスク型に分けられます。主な感染経路は性的接触ですが、一般的な性病とはちがいHPVは身近な生活環境に存在するごくありふれたウイルスで、性器や口などを介して男性にも女性にも感染します。性交経験のある女性の80%以上(男性ではそれ以上)が感染していると言われています。またHPVは子宮だけでなく、男性も含めた肛門がんや中咽頭がんの原因にもなります。

子宮頸がんには、がんになる前に異形成という段階があり、がん検診では約90%の精度で異形成の段階を見つけることができます。異形成でみつけてがんになる前に治療(子宮の入り口の異形成の部分を切り取る手術)すれば子宮を残すことが可能です。日本では年間約9000人もがこの手術を受けていますが、手術には合併症もありますから、ワクチンなど根本的な予防ができるならその方が良いのです。

子宮頸がんを予防するためには、根本原因であるHPVをワクチンで予防する(一次予防)ことと、検診で異形成をみつけてがんになる前に治療する(二次予防)ことの2つの方法を併用することが大切です。

日本で承認されているHPVワクチンは、子宮頸がんの70%を占める16型と18型を予防する2価とそれに尖圭コンジローマの原因である6型と11型を加えた4価の2種類です。現在ではさらに9価のワクチンがWHOで承認され、多くの国で定期接種されていて、子宮頸がんの90%以上が予防可能になると期待されていますが日本では未承認です。

日本では、平成22年にHPVワクチンの公費助成が開始され、平成25年から定期接種になりましたが、接種後の慢性疼痛や運動障害などの多様な症状が報告されたことで、2ヶ月で積極的勧奨が中止されてしまいました。

HPVワクチンは本当に危険なのでしょうか?日本国内での予防接種のべ890万回(338万人)を調べると、多様な症状が未回復である頻度は10万人あたり約5人(0・005%)と報告されました。しかし、HPVワクチン接種歴のない12〜18歳女子でも10万人あたり20・4人に同様の症状がみられていて、HPVワクチンが原因かどうかわかっていないのです。とはいえワクチン接種がこれらの症状の誘因になった可能性は否定できませんし、症状が回復しない方がいるのも事実です。そこで現在では予防接種後の多様な症状に対して都道府県に相談窓口を設置して救済対策をしています。

このように準備が整ったところで、昨年11月に日本産科婦人科学会はHPVワクチンの積極的勧奨の再開と勧奨中止期間に定期接種年齢を超えた女子に対する接種機会の確保を求める要望書を政府に提出しました。子育て世代の若い女性やその家族をがんという病気から守ることを、今の子供たちが成長して母になる頃までにそれが達成できるように、私たち母親世代は真剣に学び考える必要があるのです。

(C・I記)

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