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「五月病」・「新型うつ病」等の病気は存在するのか

「五月病」・「新型うつ病」等の病気は存在するのか

平成26年4月1日 発行

マスメディアやインターネットの世界でいろいろ物議をかもしている言葉に、昔は“五月病”、最近では“新型うつ病”といったうつ病関連病名があります。インターネットの中では、その診断基準や治療法、おまけに予防法までが記載されています。さらに見ていくと“新型うつ病”を専門に治療しているとコマーシャルをうっている診療所すら垣間見られます。

まず、五月病とは

新入生や新入社員が、4月になると希望と不安を抱きながら学校や職場に入学や入社して来ます。そこには、今までと違った環境が待っていて、学校であれば新しいカリキュラムの中で慣れない学問に心をときめかせるでしょうし、会社であれば、研修期間も終わり所属の職場に配属され、慣れない仕事にどぎまぎするでしょう。そういった時間が1か月も過ぎると「やる気が出ないわたし」が、見え隠れしてきます。そのような新しい環境に馴染めないことによって生じる一過性のうつ状態、それを五月病と呼んでいました。新しい環境がストレス因子となって生じる反応性状態であり、新しい環境に徐々に適応していき、夏に近づくころに自然に回復していく状況を説明した日常語でした。

次に、“新型うつ病”といえば

インターネットの中では、「従来のうつ病」=メランコリー型うつ病、双極性障害、「新型うつ病」=気分変調症、非定型うつ病などと記載しているものがあります。さらに、症状として、「仕事中は抑うつ的だが、休暇には元気」「休職中にも関わらず遊びに行ったりする」「そのような行動に自責の念が全くない」といった症状を列挙しています。好きなことはできるが、仕事で嫌なことには意欲がわかない状態をさすと一部の精神科医が言っていますが、これは現代社会に迎合した考えといえます。少なくともうつ病の症状は、思考や行動が低下し、感情や意欲が湧かない状態をさすのであって、特定の対象に際して感情や意欲が湧いたりすることはないのです。

では、“うつ病”という疾患とは何か

全ての疾患は、原因-症状-経過-転帰-病理所見が一つのまとまりになって治療が行われています。しかし、うつ病は脳の病理所見も分かっていません。症状も多彩であるところから、原因が一つに特定されることはないでしょう。ただ、脳内の神経伝達物質セロトニンの不足によって引き起こされると言われていますが、これも仮設にすぎないのです。

精神科医が行ううつ病の診断と治療

まず最初に交わす会話から始まり、治療者が症状から患者の生活を想像し聞き取る中で、患者の自己認識を深めていき、医者と患者のコミュニケーションを通して、共感するいっぱいいっぱいの中で行われていくのです。

精神科医が言う“うつ病”とは内因性うつ病であって、その症状は、意欲の低下や感情が湧いてこないもので、喜びの感情も悲しみの感情も低下する状態をいいます。一方、うつ状態、抑うつ反応等のうつ状態は、楽しくないと訴えるが、悲しみの感情まで枯れたと訴えない状態です。そういう区分けをした上で、抗うつ薬は内因性うつ病には効果的ですが、他の抗うつ状態や抑うつ反応にはさほど効果は期待できないものです。新型うつ病といううつ病は、薬を服薬することすらしないでしょうし、言い換えれば、そのような病気は存在しないと考えます。

(S・O)

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